208573 ランダム
 HOME | DIARY | PROFILE 【フォローする】 【ログイン】

あいすまん

あいすまん

構成詩「夢と希望」

構成詩(戯曲調の長詩)

「夢と希望」

2 死んでゆく…… 死んでゆく…… 死んでゆく!

B 足元では干乾びた仲間たちが、頭上では焼け焦げた仲間たちが、次々と。
灼熱の大地、からからに干上がった、地平線まで続く、限りない砂漠。
かつては豊かな水をたたえた大海原だった。

D 砂の大地に転がり埋もれた、愛、恋、優しさ、平和の、残骸。
C 権利、義務、自由、責任の、残骸。
B 喜び、怒り、哀しみ、楽しさの、残骸。

C 全ては破壊と、エゴと、偽善と、暴力に
姿を転じ
歩みを止め、未来を諦め、自ら騙されようとする者たちは
影に、呑み込まれていく
影に、食い尽くされていく

A 地上を我が物顔で食い潰していく影はさらに大きく
地球上を覆い尽くさんばかり

D 人類は絶滅寸前、新たな支配者、影が、人々を追い立てている
人々のめげに、くじけに、喪失感に、無力感に、絶望に取り憑いて
人々を噛み砕き骨抜きにし
勢いを増す、影

B 母なる太陽は豹変し、凶暴な高熱を絶え間なく浴びせる
星空に浮かぶ巨大な太陽、不気味に赤く光り、星々を呑み込まんばかり
光は弱弱しく、しかしそれでいて、異常な熱を発している!
月を呑みこみ、地上を焦がす、閉じた太陽

C 日の光をさえぎるものは何一つ無いのに
影に染まり、影に汚された大地は、どす黒い色をしている
人々は砂を食べ、砂を飲み、からからに乾いて
死んでいく

A 母が干乾びて死に、父が干乾びて死に、兄が、妹が、我が子が
からからに乾いて死んでいく
ともに歩んだ仲間たちも、一人、また一人と

2「みんな死んでしまう!これ以上見殺しにするのか!」
1「走れ走れ走れ走れ走れ走れ走り続けろ!いずれはばたき、飛び立つ時が訪れるまで、前を向いて、死力を尽くして走りつづけるんだ!」
2「もう嫌だ!一体いつまで走りつづければいいというんだ!」

A ともに走ってきた仲間が、一人、また一人と力尽きていく
昨日はあいつが、
「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい」
と繰り返しながら
一昨日はあいつが、
「しようがなかったんだ、ほかに仕方がなかったんだよ」
と言い残して

1「何を言っているんだ。死ぬまでさ。死ぬまでに決まっているだろう!」
2「冗談じゃない!死ぬまで走って、その先に一体何があるというんだ!」

D 諦めた者を襲う、死という最期
諦めなかった者をも襲う、死という最期

1「希望だ!見ろ、我々の故郷を。絶望に蝕まれ、なすすべもなく死体となっていく友を!かつて水の惑星と呼ばれた星の、変わり果てた姿を!」

B すでに酸性雨すら降らない、乾ききった死の星
我らの祖先が、水と緑と共存していたというこの大地は
今では砂と影に覆い尽くされている

2「後にも先にも死体だらけだ!これのどこに希望があるというんだ!」
1「人は生きれば、必ず死ぬ。当たり前のことを宣告されたからといって、ついえてしまうようなものは希望ではない。」
2「死ぬのなら、なぜ走る必要があるんだ!」
1「明日死ぬことが分かっているなら、明日死ぬまで生きればいい。生きることをやめたなら、その瞬間から陰に取り憑かれる。そしたら死んだも同然だ。目の前に死しかないのなら、死の闇に自ら飛び込めばいいのだ」

C 頭上に熱く重くのしかかる太陽。
かつて温もりを与えてくれた光と輝きが、今は人々の肌を焦がしている。

D 立ち止まれば朽ちて死にゆく絶望の中へ
走り続けるなら焼かれ死にゆく希望の中へ
時の流れは止まらない
時代は移ろいでいく

1「届かぬ祈りも、祈り続けることによって希望という意味を持つ。結果が何一つ残らなくても、無意味なことなどひとつもないんだ!」
2「じゃあこのまま走りつづけて、一体どこに辿り着けるというんだ」
1「空を仰いでみろ!お前の頭上に輝くものは、何だ!」

A 輝きを増す、灼熱のエネルギーの塊。
光と熱、輝きの象徴。

2「 …太陽… 」
1「そうだ太陽だお日様だ光だ輝きだ!輝きと温もりの象徴。あれを手に入れたいとは思わないのか。ここには最早、砂と影だけの大地が広がっている。上には輝きだ!目指すべき場所は希望!」
2「しかし近づけば近づくほど肌を焦がされ、仲間が次々と死んでいく」

B 私たちも死ぬのか
それが希望か
それが夢か

1「腐敗した人間たちへの救いは、あの輝きに肌を焦がされることではないのか。大地を砂と影にしてしまうまで、目を潰してでもあの光に飛び込むということに、考えが及ばなかったのは人間の、貧困な想像力による怠慢ではなかったか!」
2「一体何のことを言っているんだ!」
1「お前は夢という言葉の意味を知らないのだ。人が生きればいつか死ぬのはあたりまえだ。人類が滅ぶことだって、はじめから決まっていたことなのだ」
2「それじゃあ希望も何も無いじゃないか」
1「甘えるな! ……言葉で伝えられるようなものではないのだ」

C 夢を見失った者から順に、影の餌食となっていった
生きる目標を追いつづけることを一休みし
ひとときの安らぎ得ようと思ったがために
みんな影に食い尽くされてしまった

2「夢とは一体、何だ!」

(暗転)

A あなたたちの神は、あなたたちを許すでしょう

2「声が聞こえます」
1「耳を貸すな!」

A あなたたちは走りすぎました
あなたたちの疲労はすでに限界に達しているのです
あなたたちは、癒される必要があります
あなたたちは、安らぎを得る権利があります

2「許すと言っています」
1「耳を貸すなといっているだろう!」
2「仲間もみんな限界です!昔から人々が心を落ち着かせるためには、神の許しが必要だったのではないですか。」
1「それは神による許しではない。影による、甘い罠でしかない。」

D 弱さは許されるものではない
克服するもの
誰もが見て見ぬ振りをしてうつむき、黙りこんだこと
寂しいのが嫌だとか、苦しいのが嫌だとか、泣き言ばかりで
謝ることしか知らなかったこと
自分が可愛いがために、誰しもが抱えた
些細な裏切りや置き去り、人を傷付けてきた過去が
たやすく許されていいはずがない

1「たとえ相手が許しても、自分を許してはいけないのだ。自分を慰める人間が増えたから、人類は影につけこまれたんじゃないか!」

(暗転)

2「わたしは帰らなければなりません」
1「何を言っている」
2「帰るべき場所に帰るのです」
1「お前の故郷は、影に塗り込められて跡形もないじゃないか。だからお前はわたしと、あの太陽へ向かうことにしたんじゃないか。」
2「あんなところへ向かって一体何がある! わたしのふるさとは影なんかに塗り潰されてなどいない」
1「気をしっかり持て! 絶望の淵で、今にも影に取り殺されるところをお前は、怒りによって影を退け、わたしを訪ねたのだろう。わたしはお前の、影を退けた怒りの力に、可能性を見たんだ。わたしを失望させるな!」
2「残してきたものが、我が子のようにいとおしくてたまらないのです。ふるさとに残してきた両親が、ともに笑った仲間たちが、わたしを誉めてくれた先生が、わたしを叱った上司が、あの時傷付けてしまったあの人が、思いを伝えられなかったあの人が。置き去りにしてきたものが、わたしを呼んでいるんです!」
1「それは後悔でしかない! そう言ってみんな死んでいったのを、お前も見てきたじゃないか。お前は何も置き去りになんかしていない。全て背負ってきたのだ。今その重荷に、くじけそうになっているだけなのだ」

C 過去とは、生きている限りついてまわる、重い、重い荷物
しかしそれを捨てれば人は死に、許されれば人は退化する

2「リセットボタンを押さなければ」
1「しっかりしろ!死にこそ誕生が、終わりにこそ始まりが、絶望にこそ希望があるのだ。それが夢というんだ。目を覚ませ!走るんだよ!」
2「わたしはわたしの死に方を見つけたのです。呼んでいる。行かなければ」
1「目を覚ませと言ってるんだ!」
2「あなたはまだ走れるだろう。わたしはあなたにはなれなかった。もうどのように考えようと、わたしの足は動かないのです」
1「 …… 」
2「あなたはあなたの、わたしや仲間たちが信じてついていったあなたの正しさを、貫いてください。」

B 正しさ

1「やり直す時間などもう無いのだ。何が正しいかなんて、わたしにもわかるはずがない。ただ一つ分かっていることは死ぬことなのだ。しかし明日死ぬとわかったからといって、諦めてしまえるのか。その程度のものは夢とはいわないのだ。そこに希望など、ありえないのだ。」

(暗転)

B お前は明日死ぬ
B お前は明日死ぬ
C だからといってここで + B お前は明日死ぬ
D 何もしないまま諦めて + B お前は明日死ぬ
CD  救いはあるのか! + B お前は明日死ぬ
ABC 救いはあるのか!

C 地上の全てを覆い尽くした影
どこにも人の姿は見えない
人の声は聞こえない
あるのはうごめく影の、闇という姿
無音という声
わたしたちに残された時間は、もうほとんどない

D わたしたちは考え直さなければならない
自分が本当に自分の人生を能動的に生きてきたか
揺らぐことのない目標を定めてきたか
残された時間など、もうないのだ

A 通行人をナイフでメッタ刺しなんて、狂ったふりをして人の気を引くのは
全 もうやめろ
B 「本当の自分はどこにいるんだろう」なんて、暇を持て余して道に迷うのは
全 もうやめろ
C 「働けないのは世の中のせい」なんて、能力のない自分を棚に上げて言い訳をするのは
全 もうやめろ
D 誰も甘えさせてくれないからと、不貞腐れたり八つ当たりをするのは
全 もうやめろ

A 生きる道に選択肢などないのだ
あるのはただひとつ
全 やるかやらないか

C 自分にできるだろうかと悩んでいる暇があるなら
早くやれ
やればできるなんてあたりまえだ
できなかったならそれはお前がやりきれてないだけなんだ

D やれないやつはやらないやつ
負け犬に生きる道など残されていないのだ
息をしても心臓が鼓動を打っても
死んでいるのも同然

D 迷いはいらない
C 周囲に転がる結果の産物になど目もくれず
B 目をつぶって闇へダイブ
C   進め
CD  飛びたて
BCD 前へ
全員  空へ

B 目の前にあるのは一つの選択肢
お前は今、ここで死ぬか
それとも今、ここから
生き始めるのか。



キャスト(2002年11月、第31回沖国大祭にて上演した際のもの)
1…トーマ・ヒロコ
2…キュウリユキコ
A…宮城隆尋
B…葵
C…松永朋哉
D…ともこ



© Rakuten Group, Inc.