構成詩「夢と希望」構成詩(戯曲調の長詩)「夢と希望」 2 死んでゆく…… 死んでゆく…… 死んでゆく! B 足元では干乾びた仲間たちが、頭上では焼け焦げた仲間たちが、次々と。 灼熱の大地、からからに干上がった、地平線まで続く、限りない砂漠。 かつては豊かな水をたたえた大海原だった。 D 砂の大地に転がり埋もれた、愛、恋、優しさ、平和の、残骸。 C 権利、義務、自由、責任の、残骸。 B 喜び、怒り、哀しみ、楽しさの、残骸。 C 全ては破壊と、エゴと、偽善と、暴力に 姿を転じ 歩みを止め、未来を諦め、自ら騙されようとする者たちは 影に、呑み込まれていく 影に、食い尽くされていく A 地上を我が物顔で食い潰していく影はさらに大きく 地球上を覆い尽くさんばかり D 人類は絶滅寸前、新たな支配者、影が、人々を追い立てている 人々のめげに、くじけに、喪失感に、無力感に、絶望に取り憑いて 人々を噛み砕き骨抜きにし 勢いを増す、影 B 母なる太陽は豹変し、凶暴な高熱を絶え間なく浴びせる 星空に浮かぶ巨大な太陽、不気味に赤く光り、星々を呑み込まんばかり 光は弱弱しく、しかしそれでいて、異常な熱を発している! 月を呑みこみ、地上を焦がす、閉じた太陽 C 日の光をさえぎるものは何一つ無いのに 影に染まり、影に汚された大地は、どす黒い色をしている 人々は砂を食べ、砂を飲み、からからに乾いて 死んでいく A 母が干乾びて死に、父が干乾びて死に、兄が、妹が、我が子が からからに乾いて死んでいく ともに歩んだ仲間たちも、一人、また一人と 2「みんな死んでしまう!これ以上見殺しにするのか!」 1「走れ走れ走れ走れ走れ走れ走り続けろ!いずれはばたき、飛び立つ時が訪れるまで、前を向いて、死力を尽くして走りつづけるんだ!」 2「もう嫌だ!一体いつまで走りつづければいいというんだ!」 A ともに走ってきた仲間が、一人、また一人と力尽きていく 昨日はあいつが、 「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい」 と繰り返しながら 一昨日はあいつが、 「しようがなかったんだ、ほかに仕方がなかったんだよ」 と言い残して 1「何を言っているんだ。死ぬまでさ。死ぬまでに決まっているだろう!」 2「冗談じゃない!死ぬまで走って、その先に一体何があるというんだ!」 D 諦めた者を襲う、死という最期 諦めなかった者をも襲う、死という最期 1「希望だ!見ろ、我々の故郷を。絶望に蝕まれ、なすすべもなく死体となっていく友を!かつて水の惑星と呼ばれた星の、変わり果てた姿を!」 B すでに酸性雨すら降らない、乾ききった死の星 我らの祖先が、水と緑と共存していたというこの大地は 今では砂と影に覆い尽くされている 2「後にも先にも死体だらけだ!これのどこに希望があるというんだ!」 1「人は生きれば、必ず死ぬ。当たり前のことを宣告されたからといって、ついえてしまうようなものは希望ではない。」 2「死ぬのなら、なぜ走る必要があるんだ!」 1「明日死ぬことが分かっているなら、明日死ぬまで生きればいい。生きることをやめたなら、その瞬間から陰に取り憑かれる。そしたら死んだも同然だ。目の前に死しかないのなら、死の闇に自ら飛び込めばいいのだ」 C 頭上に熱く重くのしかかる太陽。 かつて温もりを与えてくれた光と輝きが、今は人々の肌を焦がしている。 D 立ち止まれば朽ちて死にゆく絶望の中へ 走り続けるなら焼かれ死にゆく希望の中へ 時の流れは止まらない 時代は移ろいでいく 1「届かぬ祈りも、祈り続けることによって希望という意味を持つ。結果が何一つ残らなくても、無意味なことなどひとつもないんだ!」 2「じゃあこのまま走りつづけて、一体どこに辿り着けるというんだ」 1「空を仰いでみろ!お前の頭上に輝くものは、何だ!」 A 輝きを増す、灼熱のエネルギーの塊。 光と熱、輝きの象徴。 2「 …太陽… 」 1「そうだ太陽だお日様だ光だ輝きだ!輝きと温もりの象徴。あれを手に入れたいとは思わないのか。ここには最早、砂と影だけの大地が広がっている。上には輝きだ!目指すべき場所は希望!」 2「しかし近づけば近づくほど肌を焦がされ、仲間が次々と死んでいく」 B 私たちも死ぬのか それが希望か それが夢か 1「腐敗した人間たちへの救いは、あの輝きに肌を焦がされることではないのか。大地を砂と影にしてしまうまで、目を潰してでもあの光に飛び込むということに、考えが及ばなかったのは人間の、貧困な想像力による怠慢ではなかったか!」 2「一体何のことを言っているんだ!」 1「お前は夢という言葉の意味を知らないのだ。人が生きればいつか死ぬのはあたりまえだ。人類が滅ぶことだって、はじめから決まっていたことなのだ」 2「それじゃあ希望も何も無いじゃないか」 1「甘えるな! ……言葉で伝えられるようなものではないのだ」 C 夢を見失った者から順に、影の餌食となっていった 生きる目標を追いつづけることを一休みし ひとときの安らぎ得ようと思ったがために みんな影に食い尽くされてしまった 2「夢とは一体、何だ!」 (暗転) A あなたたちの神は、あなたたちを許すでしょう 2「声が聞こえます」 1「耳を貸すな!」 A あなたたちは走りすぎました あなたたちの疲労はすでに限界に達しているのです あなたたちは、癒される必要があります あなたたちは、安らぎを得る権利があります 2「許すと言っています」 1「耳を貸すなといっているだろう!」 2「仲間もみんな限界です!昔から人々が心を落ち着かせるためには、神の許しが必要だったのではないですか。」 1「それは神による許しではない。影による、甘い罠でしかない。」 D 弱さは許されるものではない 克服するもの 誰もが見て見ぬ振りをしてうつむき、黙りこんだこと 寂しいのが嫌だとか、苦しいのが嫌だとか、泣き言ばかりで 謝ることしか知らなかったこと 自分が可愛いがために、誰しもが抱えた 些細な裏切りや置き去り、人を傷付けてきた過去が たやすく許されていいはずがない 1「たとえ相手が許しても、自分を許してはいけないのだ。自分を慰める人間が増えたから、人類は影につけこまれたんじゃないか!」 (暗転) 2「わたしは帰らなければなりません」 1「何を言っている」 2「帰るべき場所に帰るのです」 1「お前の故郷は、影に塗り込められて跡形もないじゃないか。だからお前はわたしと、あの太陽へ向かうことにしたんじゃないか。」 2「あんなところへ向かって一体何がある! わたしのふるさとは影なんかに塗り潰されてなどいない」 1「気をしっかり持て! 絶望の淵で、今にも影に取り殺されるところをお前は、怒りによって影を退け、わたしを訪ねたのだろう。わたしはお前の、影を退けた怒りの力に、可能性を見たんだ。わたしを失望させるな!」 2「残してきたものが、我が子のようにいとおしくてたまらないのです。ふるさとに残してきた両親が、ともに笑った仲間たちが、わたしを誉めてくれた先生が、わたしを叱った上司が、あの時傷付けてしまったあの人が、思いを伝えられなかったあの人が。置き去りにしてきたものが、わたしを呼んでいるんです!」 1「それは後悔でしかない! そう言ってみんな死んでいったのを、お前も見てきたじゃないか。お前は何も置き去りになんかしていない。全て背負ってきたのだ。今その重荷に、くじけそうになっているだけなのだ」 C 過去とは、生きている限りついてまわる、重い、重い荷物 しかしそれを捨てれば人は死に、許されれば人は退化する 2「リセットボタンを押さなければ」 1「しっかりしろ!死にこそ誕生が、終わりにこそ始まりが、絶望にこそ希望があるのだ。それが夢というんだ。目を覚ませ!走るんだよ!」 2「わたしはわたしの死に方を見つけたのです。呼んでいる。行かなければ」 1「目を覚ませと言ってるんだ!」 2「あなたはまだ走れるだろう。わたしはあなたにはなれなかった。もうどのように考えようと、わたしの足は動かないのです」 1「 …… 」 2「あなたはあなたの、わたしや仲間たちが信じてついていったあなたの正しさを、貫いてください。」 B 正しさ 1「やり直す時間などもう無いのだ。何が正しいかなんて、わたしにもわかるはずがない。ただ一つ分かっていることは死ぬことなのだ。しかし明日死ぬとわかったからといって、諦めてしまえるのか。その程度のものは夢とはいわないのだ。そこに希望など、ありえないのだ。」 (暗転) B お前は明日死ぬ B お前は明日死ぬ C だからといってここで + B お前は明日死ぬ D 何もしないまま諦めて + B お前は明日死ぬ CD 救いはあるのか! + B お前は明日死ぬ ABC 救いはあるのか! C 地上の全てを覆い尽くした影 どこにも人の姿は見えない 人の声は聞こえない あるのはうごめく影の、闇という姿 無音という声 わたしたちに残された時間は、もうほとんどない D わたしたちは考え直さなければならない 自分が本当に自分の人生を能動的に生きてきたか 揺らぐことのない目標を定めてきたか 残された時間など、もうないのだ A 通行人をナイフでメッタ刺しなんて、狂ったふりをして人の気を引くのは 全 もうやめろ B 「本当の自分はどこにいるんだろう」なんて、暇を持て余して道に迷うのは 全 もうやめろ C 「働けないのは世の中のせい」なんて、能力のない自分を棚に上げて言い訳をするのは 全 もうやめろ D 誰も甘えさせてくれないからと、不貞腐れたり八つ当たりをするのは 全 もうやめろ A 生きる道に選択肢などないのだ あるのはただひとつ 全 やるかやらないか C 自分にできるだろうかと悩んでいる暇があるなら 早くやれ やればできるなんてあたりまえだ できなかったならそれはお前がやりきれてないだけなんだ D やれないやつはやらないやつ 負け犬に生きる道など残されていないのだ 息をしても心臓が鼓動を打っても 死んでいるのも同然 D 迷いはいらない C 周囲に転がる結果の産物になど目もくれず B 目をつぶって闇へダイブ C 進め CD 飛びたて BCD 前へ 全員 空へ B 目の前にあるのは一つの選択肢 お前は今、ここで死ぬか それとも今、ここから 生き始めるのか。 了 キャスト(2002年11月、第31回沖国大祭にて上演した際のもの) 1…トーマ・ヒロコ 2…キュウリユキコ A…宮城隆尋 B…葵 C…松永朋哉 D…ともこ ジャンル別一覧
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